はたらく刃物(硯の鑿)
<<
作成日時 : 2008/05/07 22:47
>>
トラックバック 0 / コメント 0
『ナイフマガジン』の連載「はたらく刃物」が好評です(担当編集者談)。
今発売中の号では「硯」を彫る道具を紹介しています。
宮城県の雄勝(おがつ)という硯産地を取材してきました。
ここで採れる玄昌石(げんしょうせき)という硬質粘板岩は、古代(およそ2億年前)の海に沈殿した微粒子の泥層が地殻変動で隆起したものです。
沈殿した順に薄い層状になっており、横から力を加えると、板を削いだように剥離します。いわゆるスレートとして、かつては屋根材としてもおおいに活用されたとのこと。
雄勝の町には、建築学的にも貴重な天然スレート葺きの家がいくつか残っています。
玄昌石は、肌理(きめ)や硬さが、膠と煤でできた墨をするのにちょうどよく、室町頃から硯の原石として知られてきました。
雄勝は高級硯の産地として知られていますが、原石が露天で採掘できることからコストが安く、ワタシたちが小中学校で使った、いわゆる学童硯も、ほとんどは雄勝産だそうです。
そんな硯作りに半世紀携わってきた職人さんの手さばきをじっくり見せてもらいました。
石を彫るのは、鋼の鑿(のみ)です。手の力だけでは足りないので、小兵の職人さんは鑿の柄を右の肩口に当て、腰を浮かして体重を乗せながらゴリゴリと削っていきます。
服を脱いで見せてくれた肩口は、毎日柄を当て続けたために硬いタコができていました。
こんな仕事ダコははじめて見ました。
最近は鋼も切削専門の超合金になり、摩耗しにくくなったとのこと。しかし、硬い素材の宿命として衝撃に弱く(折れやすい)、胴が太めになっているそうです。
昔は柔らかな地鉄(じがね)に炭素鋼をはさんだ、鍛冶屋が鍛えた鑿を使っていました。
鍛冶屋の鑿は摩耗が早く、しょっちゅう研がねば注文の数をこなせなかったそうですが、胴が細くしても折れません。しなりがきくぶん石への食いつきがよく、体が感じるトータルの負担は、能率の上がった今よりもむしろ少なかったといいます。
なんとなく、クルマの耐衝撃性能の話に似ているな、と思いました。
クルマの安全性は、ある時期まで、乗っている人の身の安全が第一でした。
その象徴がオフロード4駆のカンガルーバンパーで、相手をはじき飛ばす「剛」の発想です。
最近の車は、ぶつけた相手へのダメージも考え、自らくしゃっと潰れる「柔」の発想になってなっています。
こういう「柔よく剛を制す」的な感覚は、分野を問わず、もっともっと見直されてよいように思ったのでありました。
|